東京地方裁判所 平成4年(ワ)4325号 判決
原告
甲野一郎
同
甲野春子
同
乙川春男
同
乙川花子
同
乙川夏男
同
乙川月子
右夏男、月子両名法定代理人親権者父
乙川春男
同母
乙川花子
原告
丙山梅夫
同
丙山桜子
同
甲野二郎
右二郎法定代理人親権者養父
甲野一郎
同養母
甲野春子
原告
丙山一夫
右一夫法定代理人親権者父
丙山梅夫
同母
丙山桜子
右一〇名訴訟代理人弁護士
和田衛
被告
丁田雪子
右訴訟代理人弁護士
池田達郎
同
白河浩
被告
茂海一美
右訴訟代理人弁護士
濱勝之
右訴訟復代理人弁護士
小林俊行
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 被告らは、原告らに対し、別紙物件目録記載一の土地上の別紙図面二記載ア、イの各点を直線で結ぶ線上に設置してあるコンクリート塀を撤去せよ。
二 被告らは、原告らに対し、別紙物件目録記載一の土地と同目録記載二、三の土地に跨がる別紙図面二記載カ、オ、ウ、エ、カの各点を順次直線で結んだ線で囲まれた土地に対する原告らの通行等道路としての利用を妨害してはならない。
第二 事案の概要
本件は、原告ら共有土地と被告ら共有土地とに跨がって建築基準法四二条二項の道路の指定がされたところ、右指定道路上に設置された被告ら共有のコンクリート塀につき、被告らにその撤去義務等があるか否かが争われた事件である。右塀は、道路指定された被告ら共有土地上に存し、その塀に接して同じく道路指定された原告ら共有土地がある。その位置関係は別紙図面一、二記載のとおりである。原告らは、被告らに対し、第一次的に、原告土地の所有権と右道路指定に基づき、第二次的に、右のほか、原告らが道路指定土地の一部の提供者であること及び右道路指定後に塀が設置されたことに基づいて、塀の撤去及び道路指定土地の通行等の妨害排除と妨害予防を求める。
一 争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実
1 原告らは、別紙物件目録記載二、三の土地(以下、併せて「原告土地」という。)を共有し、被告らは、同目録記載一の土地(以下、「被告土地」という。)を共有している。
原告土地は、もと訴外株式会社ヤナギサンドライの所有であったが、原告らが昭和五九年六月二六日、交換により右土地の所有権を取得した。また、原告甲野一郎は、原告土地に隣接する別紙図面一記載の五一二番五の土地を平成元年六月一日に、これに隣接する同図面一記載五一二番六の土地を平成二年七月三日に、それぞれ売買によりその所有権を取得した。
被告土地は、もと小金井源吉が所有していたものであるが、同人が昭和四六年一一月一〇日に死亡し、原告らが、別紙図面一記載の五一三番一の土地とともに相続によりこれを取得した。
2 原告土地と被告土地は、隣接しており、別紙図面二記載のア、イの各点を直線で結ぶ線(以下「ア―イ線」という。)に沿って、被告土地上に被告ら共有の別紙図面二記載のコンクリート塀(以下「本件塀」という。)が存する。
二 争点
1 原告土地及び被告土地に二項道路の指定がされた時期及びその範囲
(原告らの主張)
別紙図面二記載のカ、オ、ウ、エ、カの各点を順次直線で結んだ範囲の土地に対し、昭和二五年一一月二八日東京都告示第九五七号をもって、建築基準法(昭和二五年法律第二〇一号)四二条二項の規定により、道路(以下「二項道路」という)の指定が行われた(右指定された土地を、以下「本件道路指定土地」という。)。原告土地と被告土地とは、ア―イ線で隣接しているところ、本件道路指定土地は、被告土地のうち別紙図面二記載のア、イ、ウ、エ、アの各点を順次直線で結んだ範囲の土地部分(以下「被告土地部分」という。)と原告土地のうち同図面二記載のア、イ、オ、カ、アの各点を順次直線で結んだ範囲の土地部分(以下「原告土地部分」という。)とからなっている。
(被告丁田の主張)
原告らの主張を否認する。訴外有限会社浩(代表取締役甲野一郎)は、平成四年二月二一日付けをもって、目黒区に対し本件道路指定土地に対し二項道路の確認申請を提出し、目黒区は、そのころこれを確認し、二項道路の指定をした。
(被告茂海の主張)
原告らの主張中、原告土地と被告土地とがア―イ線で隣接していることは認めるが、その余の主張は争う。
2 原告らは、被告らに対し、本件塀の撤去請求権及び本件道路指定土地に対する妨害排除並びに妨害予防請求権があるか。
(原告らの主張)
(1) 争点1の主張に同じ。
(2) 本件道路指定土地は、全面的に相接している原、被告らの各共有土地からなり、それらが不可分一体のものとして二項道路に指定され、全体として幅員四メートルとなるように道路を形成しているものである。したがって、原告らは本件道路指定土地を通行等道路として利用する権利を有するものである。そのため、原告らは、原告土地に建物を建築する際、本件道路指定土地の中心線から二メートルの線(ア―イ線から原告土地内に12.5センチメートルの線)まで、いわゆるセットバックさせられた。
(3) 本件道路指定土地は、昭和二五年当時は通路であった。しかるに、被告らは本件道路指定後の昭和二八年ころ設置された本件塀を共有し、その撤去を拒んでいる。そのため、原告らは、本件道路指定土地を道路として利用することができない。
(4) よって、原告らは、被告らに対し、第一次的に、原告土地部分の所有権と本件道路指定に基づき、第二次的に、右のほか、原告らが本件道路指定土地の一部の提供者であること及び本件道路指定後に本件塀が設置されたことに基づいて、本件塀の撤去及び本件道路指定土地の通行等の妨害排除並びに妨害予防を求める。
(被告丁田の主張)
(1) 原告らに本件塀の撤去を請求すべき私法上の権利はない。二項道路の一括指定があったからといって、当然に原告らが本件道路指定土地について通行権を取得するものではない。
(2) また、本件塀は、昭和二三年ころ、官民査定による境界確定が行われ直後ころに小金井源吉が設置したもので、本件道路指定後に設置されたものではない。
(3) 仮に、本件塀が本件道路指定後に設置されたものであったとしても、本件道路指定は、個別指定ではなく一括指定で行われ、被告土地の当時の所有者であった小金井源吉に通知されず同人はこの指定を知らなかった。また、同土地は幅員六メートル以上もあって二項道路の要件を満たさない違法な指定であった。このような場合には、源吉のした本件塀の設置をもって二項道路指定に違反するものであることを主張することはできない。
(4) 本件道路指定土地のうちの被告土地部分は、これまで一般公衆の通行の用に供されたことはない。
(5) 原告らの被告土地部分に対する通行権の有無は、当事者間の合意又は民法上の相隣関係の規定の適用に委ねられているところ、原告ら所有地は、公道(幹線道路である山手通り)に21.55メートル以上も接していて、相隣関係の規定の適用もなく、原告らが本件道路指定土地を利用する必要性はない。
(被告茂海の主張)
(1) 原告らの主張中、本件塀が本件道路指定後の昭和二八年に設置されたことは認めるが、その余の主張は争う。本件道路指定土地のうち被告土地部分は被告らの屋敷内にあり、被告らの専用宅地であって、道路として一般に使用させたことはない。道路としての形態も実績もない。
(2) 被告土地部分については、民法相隣関係の規定によらなければ、原告らに使用権はない。原告らは、かかる状況を承知の上で原告土地を最近取得したものにすぎない。
第三 争点に対する判断
一 争点1について
証拠(甲八、九、一一、一二の1、8、一四、丙一、証人網倉邦明、原告甲野一郎)によると、原告土地と被告土地とは別紙図面二記載のア―イ線で隣接しているところ、東京都は、昭和二五年一一月二八日東京都告示第九五七号をもって、建築基準法(昭和二五年法律第二〇一号)四二条二項の規定により二項道路の指定を行い、これによって、同図面二記載キークの各点を直線で結ぶ中心線の両側、水平距離二メートルの範囲の土地である原告土地部分及び被告土地部分(本件道路指定土地)が同条一項の道路とみなされるに至ったことが認められる。
二 争点2について
1 証拠(甲一、一二の8、乙六ないし九、一二、一八・一九の各1、2、二〇、二一。丙一、原告甲野一郎)及び弁論の全趣旨によると、次の事実を認めることができる。
すなわち、本件道路指定土地には、ア―イ線に沿って被告土地上に本件塀が存し、右塀の設置時期は明らかではないが、本件道路指定がされた昭和二五年の前後にかけて被告土地のもと所有者小金井源吉の設置にかかるものであり、別紙図面二記載のA、B点に同時期に源吉によって設置されたと推定される被告ら共有の二五センチメートル角の門柱が二本、3.25メートルの間隔で立っている。右門柱の東北側は公道(幅員三〇メートルの幹線道路である山手通り)に接し、その反対方向、門柱の西南側の被告土地部分は、通路状をなして被告ら共有の奥の宅地(五一三番三、五一三番一)に通じている。源吉は、昭和四三年から同四五年にかけて、右被告ら共有地のさらに西南側に位置する五一四番一、同番三及び同番六の三筆の所有土地を訴外金子佐一郎に売却し、同所が袋地であったため、金子佐一郎やその家族が、昭和五四年ころまで、本件道路指定土地のうち被告土地部分を通路として使用したことがあったが、それを除いては、被告土地部分は、被告らやその家族の専用の通路として使用され、一般の通行の用に供されたことはなかった。原告らが通行のために使用したこともない。原告土地及び原告甲野一郎所有の五一二番五及び同番六の土地は、公道である山手通りに二〇メートル以上も接しており、右各土地上の建物(地上八階、地下一階、延面積2776.59平方メートル、高さ33.8メートル)の接道義務は前記山手通りに接することで満たされ、原告らは、日常、本件道路指定土地を使用する必要性はない。原告甲野一郎は、原告土地の購入当時から本件塀の存在を知っており、購入直後の昭和五九年九月二七日付けで、将来、原告ら方で建物を建築する際、本件塀を破損しないことを約する旨の覚書(乙一二)を訴外モザミ株式会社(代表取締役原告甲野春子)と連名で被告らに差し入れている。
以上の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
2 右認定の事実に基づいて考えるに、仮に、本件塀が本件道路指定後に設置され、被告らが本件道路指定土地内に建築基準法四四条一項に違反する建築物を共有しているとしても、塀の内側である被告土地部分は、現実に道路として開設されたことがなく、原告らも通行のため使用したことがない本件事実関係の下においては、被告土地部分に対する二項道路指定の事実から直ちに、原告らが被告らに対し、右塀の撤去を求め、かつ、本件道路指定土地の通行等の妨害排除及び妨害予防を求める私法上の権利があるということはできない、と解するのが相当である(最高裁昭和六二年(オ)第七四一号平成三年四月一九日第二小法廷判決・裁判集民事一六二号四八九頁、同平成元年(オ)第一七九二号同五年一一月二六日第二小法廷判決・裁判集民事一七〇号六四一頁参照)。このことは、原告らが原告土地部分の所有権を有し、右土地部分を本件道路指定土地の一部として提供している者である場合であっても異ならない。
3 そうであるならば、争点2に関する原告らの主張は理由がないことになる。
第四 結語
よって、原告らの請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官河野信夫)
別紙物件目録
一
所在 東京都目黒区中目黒三丁目
地番 五一三番三
地目 宅地
地積 502.47平方メートル
二
所在 東京都目黒区中目黒三丁目
地番 五一二番三
地目 宅地
地積 196.00平方メートル
三
所在 東京都目黒区中目黒三丁目
地番 五一二番七
地目 宅地
地積 39.63平方メートル